デニムベストと半ズボン、そして自転車ファンの垂涎の的となっている自転車。この姿で、エクストリームバイクチューナーDangerholm、実名グスタフ・グルホルムは無数の写真に写っています。彼は、美学とライディングにかけるピュアな情熱をコンセプトにして自転車を製造しています。豊富なアイディアを活かしながら完璧主義を貫いて自転車を生み出し、自転車業界のスターに上り詰めた彼のアイディアの一つが、全く新しいハンドルバーです。
ノルウェー生まれで、スウェーデン在住のメカニックである彼は、このハンドルバーをまずは木材で製造しましたが、それについて「TRUMPFのエンジニアが成し遂げたものと比較すると、自分の模型は原始人が作ったもののようでした」と評しています。このハンドルバーでは、未来的デザインに加えて、ブレーキケーブル用のセミインターナルダクトを備えたユニットが主なベースになっています。また、取り付けとメンテナンスが、手間をかけてブレーキを取り外してエア抜きすることなくできるように意図されています。それを可能にするスナップ・プッシュ連結では、ケーブルがダクト内に通され、クリップで固定されています。このクリップにはアンダーカットがあるため、カーボンでハンドルバーを製造する場合には、非常に複雑な形状が必要になってしまいます。その点に関して、積層造形は工法的に優れており、よりエレガントなデザインが可能になります。
積層造形によるプロトタイプ開発
自転車業界で有数のブランドメーカーScottでSyncrosコンポーネントエンジニアとして働いているマクシーム・ラレマンド氏は、こう語っています。「Dangerholmとはもう何年間も一緒に仕事をしています。今回彼はEurobike 2024に向けて、未来型自転車のアイディアを反映したプロトタイプを製造したいと考えていました。しかも、コンセプトモデルではなく、実際に走行可能なマウンテンバイクです。当社にとっては、新しいハンドルバーコンセプトも非常に困難な課題となりました。」
時間はあっという間に過ぎて、Eurobikeまで残り5か月となりました。これは、ハンドルバーの開発、TruPrint 3000での製造とISO認証取得にはギリギリの時間でした。そこで、Scottのマクシーム・ラレマンド開発担当者とクエンティン・ボーレガードMTBチーフデザイナーは、TRUMPFの3Dプリンターエキスパートに再び連絡することにしました。「プロトタイプ開発では、アルミニウム積層造形はコストと速度の面で、従来のカーボン・金型製造よりもはるかに優れています。技術的に見ると、積層造形は形状と機能に関して制限がありません。この製法を利用することで、Dangerholmのために技術的に完璧なハンドルバーを見た目の悪さが全くない状態で製造することが可能になったのです。」
2年前:自転車業界での挨拶回り
マクシーム・ラレマンド氏とクエンティン・ボーレガード氏が、TRUMPFのアプリケーション開発担当者クリス・レングウェナートと積層造形技術エキスパート、ニコラス・ハイトと知り合ったのは、2022年のEurobikeでのことでした。TRUMPFの両者はそこに、自分達が開発し、TruPrintでアルミニウムとチタンを材料にして積層造形したブレーキレバー、ブレーキキャリパーとペダルを持ち込んで参加していたのでした。「小型ケースを引っ張って、各ブースを次から次へと訪問しました」とレングウェナートは当時のことを振り返り、ハイトはそれに次のように付け加えています。「最終的には、大メーカーの開発部の多くの方達と新たに知り合うことができました。そのうちの一人であったマクシーム・ラレマンドさんが、バイクチューナーDangerholmも紹介してくれたのです。」
今日:アルミニウム積層造形でのパイオニア
この出会いは強い印象を残し、Eurobike 2024に先だって、TRUMPF、ScottとDangerholmの間で運命の糸が再び結ばれることになりました。「アルミニウムによる積層造形が、ハンドルバーのようなコンポーネントの製法として考慮の対象になり得たのは、新しい高強度合金のおかげです」とTRUMPFのエキスパート、クリスティアン・レングウェナートは述べ、次のように付け加えています。「アルミニウム6061は、自転車業界で既に大きな反響を得ています。そして現在のところ、ヨーロッパでこの材料による積層造形の経験を有しているのは当社だけです。」
TRUMPFの専門家達にとってこのプロジェクトは、高品質カーボン自転車・コンポーネントの生産で何十年にも及ぶ経験を有するSCOTT Sportsのカーボンエキスパートと意見交換する機会になりました。ラレマンド氏にとって、そのメリットは明らかでした。「このハンドルバープロジェクトでは、それぞれの専門知識を最適な形で相互に結びつけることができたのです。」
完全に自由なデザインが可能
積層造形の専門家であるレングウェナートは、積層造形ではデザインでの制限がないと説明しています。「切削加工などの従来の工法とは異なり、金属積層造形では形状を自由に生み出せることがメリットになっています。工具では物理的な限界に達してしまう一方で、粉末であればどのような形状も自由自在に作り出すことができます。」 これにハイトは、「Dangerholmハンドルバーのインターナルケーブルダクトは、積層造形でなければ実現できないもので、軽量でありながら高い安定性が得られています。これが、特に自転車業界にとってアルミニウム積層造形が非常に有益である理由です」と付け加えています。
Eurobike 24にピタリと合わせて、Dangerholm、ScottとTRUMPFは要件の高いハンドルバー構造を完成させました。再びスウェーデンに戻ったDangerholmは、次のように喜びを表しています。「積層造形はSFのようなものです。文字通りに、未来のかけらが手の中にあるように感じられます。」
チタンによる積層造形
同じ自転車でもサプライヤーは色々あり、Dangerholmは変速機コンポーネントでカナダのFaction Bike Studioと協力しています。TRUMPFのエキスパート、レングウェナートとハイトはFaction Bike Studioの依頼を受けて、この自転車用にチタンコンポーネントを作成しました。具体的には、パラレログラムやケージなどの、むき出しになっていて故障しやすい変速機コンポーネントです。これらのコンポーネントは、TruPrint 1000を使用して、酸素含有量が非常に低い特殊チタン合金であるTi64 Gd.23から積層造形したものです。その結果、安定性とデザインの面で新次元にレベルアップしています。